・「無理して救わなくても良い」

 

 ある地方の中小企業支援機関職員は、経済産業局の職員から「存続が困難な企業を無理して救わなくて良いです」と言われたという。「コロナ禍も一段落し、これ以上、ゾンビ企業を存続させるわけにはいかないという雰囲気が強くなっている」とも言う。

 

 「12月末よりも3月末でしょうね。うちでも、今年度は貸倒引当金を多めに準備している」関西地方のある地方金融機関の幹部は、筆者にそのように話した。さらに、「本来であれば、コロナ禍に関係なく、倒産なり、廃業すべきだった企業が、ゼロゼロ融資や雇用調整助成金などで、延命されてしまった部分は否定できない。いよいよそれも終わりにしないといけないだろう」とも言った。

 

 筆者は、関西地方だけではなく、首都圏や他の地方の金融機関関係者にも意見を聞いてきたが、その多くが2023年度末に向けて、倒産や廃業が増加していくという指摘をした。

 

リーマン・ショック並みの悪化

 

帝国データバンクが12月8日に発表した『全国企業倒産集計』によれば、10月の倒産件数は594件と前年同月から82件増加となり、10月単月の増加幅としてはリーマン・ショック直後の2008年10月以来、14年ぶりの高水準となった。

 

 さらに、11月の企業倒産件数は、前年同月から102件増。2022年通年としても3年ぶりに前年比増加が確実だ。

 

 

2022年11月の倒産件数の前年同月比は、リーマン・ショック直後と並ぶ高水準。
2022年11月の倒産件数の前年同月比は、リーマン・ショック直後と並ぶ高水準。

 

・倒産件数は増加

 

 12月に入っても、倒産件数の増加は止まらない。東京商工リサーチが12月26日に発表した『「新型コロナウイルス」関連破たん』によれば、コロナ関連破たん件数は9月に206件、10月に226件、11月も210件と、3カ月連続で200件を超し、12月は26日現在ですでに184件が判明している。

 

 また、負債1,000万円未満の小規模倒産を含めた新型コロナウイルス関連破たんは累計で5,026件に達しており、国内の企業数(358万9,333社、2016年総務省「経済センサス」)を基にした比率では、コロナ破たん率は0.140%で1,000社に1社が破たんした計算となるとしている。

 

・「ゼロゼロ融資」の返済開始

 

 新型コロナ対策として政府が行ってきた中小企業向けのゼロゼロ融資(実質無利子・無担保融資)の受付が9月で終了し、2023年には多くの企業で返済が始まる

 

 ゼロゼロ融資の効果は大きく、2021年度の倒産件数は半世紀ぶりという低水準となった。しかし、実はコロナの影響だけではなくそもそも経営が悪化しており、債務超過状態に陥っているにもかかわらず生き残ってしまった企業、いわゆるゾンビ企業を大量に発生させてきた。

 

 ゼロゼロ融資の返済開始は、2023年7月から2024年4月に集中する。ゼロゼロ融資のために延命していたゾンビ企業の命運が、いよいよ尽きることになる。

 

 首都圏のある中小企業の経営者は、「先代経営者から引き継いだ借入金に加え、ゼロゼロ融資の返済も始まる。原材料費の上昇を販売価格に転嫁できておらず、運転資金の確保も難しくなっている。切り売りするほどの資産もなく、もうどうしたらよいか判らず、行き詰まりつつある」と嘆く。

 

 

 

・ゼロゼロ融資の貸出総額42兆円、利子補填は約1.8兆円

 

 ゼロゼロ融資は、中小企業庁の発表によれば、2020年3月から9月末までに約245万件、総額42兆円に上り、政府が負担する利子は約1.8兆円が見込まれている。

 

 すでに、2022年のゼロゼロ融資(コロナ融資)後の倒産件数は、11月までの累計で353件となり、前年の2倍の水準に達している。回収不能となった損失額は推計で300億円を超えており、今後も増加する見込みだ。

 

 回収不能になった場合は、金融機関に対しては信用保証協会から補填されることになっている。しかし、信用保証協会は、公的な機関であり、最終的には政府が損失補填を行う。仮に倒産が増加すれば、これらが巨額の回収不能額が、国民の負担となる危険性がある。

 

雇用調整助成金の特例措置の終了

 

 雇用調整助成金は、従業員の雇用維持を図るために政府が休業手当などの一部を補助する制度だ。長期化するコロナ禍によって、特例措置を行ってきた。しかし、行動規制の撤廃などにより、従業員1人当たりの日額上限額は1万2000円から9000円に減額、最大10割だった助成率も9割(大企業は3分の2)に縮小となり、特例措置も廃止される。

 

 雇用調整助成金も、ゾンビ企業を延命させてきたとの批判が多かった。コロナ特例の終了で淘汰されるべき企業があぶり出されることになる。首都圏の中小企業支援機関の職員は、「もともと経営者の高齢化で廃業を検討していたところにコロナ禍になり、休業補償と雇用調整助成金などを目いっぱいもらって、切れたところで廃業を考えているところもある。こうした廃業が、これから急増するだろう」と言う。

・ゼロゼロ融資に代わる「新たな借換保証制度の創設」

 

 12月19日に開催された中小企業政策審議会金融小委員会(第8回) 配布資料によれば、ゼロゼロ融資に代わる「新たな借換保証制度の創設」に加え、債務超過に陥っている企業のゼロゼロ融資を資本的劣後債権(保証付DDS)へ転換することで、財務状況を改善し、新たな借り入れを可能にすることが提案されている

 

 12月23日には、中小企業庁から「新たな借換保証制度」として民間ゼロゼロ融資等の返済負担軽減のための保証制度(コロナ借換保証)を2023年1月10日から開始することが発表された。

 

・新たなゾンビ企業延命策になるのではないかとの批判も

 

 債務超過企業の生き残りを図るだけで、新たなゾンビ企業延命策になるのではないかという批判も根強い。そのため、資料でも収支計画・返済計画(黒字化目標含む)など含む経営行動計画書の作成や、金融機関による継続的な伴走支援を求めるとしている。

 

 関東地方の金融機関の職員は、「資本的劣後債権は資本に繰り入れられると言いますが、見かけ上の財務状況が良くなるだけで、根本的な解決にはなっていない」と指摘する。新たなゾンビ企業延命策になり、将来的に損失額を増加させることを避ける必要がある。また、中小企業関係の研究者の一部が、「劣後債は、永久に返済不要」といった誤った情報を流したこともあり、首都圏の自治体職員は、「中小企業経営者の中には、借金が事実上の棒引きになると勘違いしている人もいる。きちんと説明をしなければ、モラルハザードの温床になりかねない」と指摘する。

 

 

中小企業では12%で私的整理を検討する可能性があると回答している。
中小企業では12%で私的整理を検討する可能性があると回答している。

 

・3月末に向けて選別と淘汰が進む

 

 市場から退出すべき企業が残存していることによって、資本や人材が流動せず、イノベーションや新たな起業を阻害しているという指摘もある。

 

 健全性の低い金融機関が、不良債権化を嫌い、信用保証協会による代位弁済を理由に、債務超過企業に追い貸しをする。これもゾンビ企業を存続させてきたことの理由の一つだ。ゼロゼロ融資の資本的劣後債権への転換が、ゾンビ企業への追い貸しとなるのでは、従来と同じことの繰り返しで、ますます日本経済の衰退を招く。

 

 政府もこのことは充分理解しているはずである。だとすれば、今後、中小企業の選別が進むはずである。さらに、円安、原材料費の高騰、人件費の上昇が、中小企業の経営を圧迫する。

 

東京商工リサーチ『第25回「新型コロナウイルスに関するアンケート」調査』によると、ゼロゼロ融資について、すでに返済猶予を受けていたり、今後の返済に懸念を感じている中小企業は約3割に及んでおり、私的整理手続きを活用して事業再構築を検討する可能性のある企業は1割を超している。

 

 今後、2022年度末である3月に向けて、倒産や廃業する企業が増加することは不回避な状況になりつつある。中小企業3月末の大量倒産・廃業説は、真実味を増していると言える。