今こそ冷静に考えたい「アベノミクス」失敗の経緯、安倍政権によって日本経済はどうなったか
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政治におけるリーダーの最も基本的な使命は、自分の国を、自分が最初にその役割を担うことになったときよりもよくすること、あるいは少なくとも悪くしないことである。 この記事の写真を見る この最低限の目標において、安倍晋三元首相は大失敗をした。有権者は何年にもわたって、高邁な経済目標を次々と発表し、その達成に必要な措置を提示しないという彼の選挙戦術を支持してきた。しかし、今日、安倍首相の失敗は広く認識され、岸田文雄首相は「新しい資本主義」という政策をアベノミクスに対する希薄な是正策として提起している。
■アベノミクスが機能しているように見えたワケ 多くの前任者と同様、安倍元首相は日本の実質(物価調整後)国内総生産(GDP)成長率を年率2%に回復させると約束したが、その目標には遠く及ばなかった。 当初は、2012年第4四半期から2014年第1四半期までGDPが年率3.2%のペースで上昇し、アベノミクスが機能しているように見え、これによってアベノミクスは不当に信頼されることになった。実際には、GDPは一時的に急伸したが、それは単に長い不況の後を受けた経済現象に過ぎなかった。
安倍元首相が政権に復帰したとき、GDPは7年前から上昇していなかったので、循環的な上昇を享受した。このサイクルは失われた30年の間に何度も起きている。1991年以降、年間のGDP成長率は平均0.7%未満であるにもかかわらず、である。 そして、2014年4月、安倍元首相は消費税を5%から8%に引き上げ、成長に水を差したのである。健全な経済状態であれば、このような事態は短期間の成長鈍化にとどまったであろう。これに対し、日本では、特に2019年に2回目の引き上げが行われたため、数年間にわたり成長が抑制された。
その結果、2014年初めから2019年末まで、つまり新型コロナウイルス感染症が経済を直撃する前まで、GDPはかろうじて年率0.2%ペースで成長したに過ぎなかった。これは、安倍元首相が約束したペースのわずか10分の1に過ぎない。 もちろん、GDPの成長は、生活水準の向上という目的を測るためのツールに過ぎない。安倍元首相のもとではその逆が起きた。生活水準が1990年代から下がり続けるなかでバトンを引き継いだ安倍首相は状況をさらに悪化させたのである。
正規労働者の場合、2012年から2019年にかけて、実質時給は5%近く減少した。また、この間、雇用の増加分のうち82%が低賃金の非正規雇用であった。その結果、2020年時点で、正社員の平均時給が2500円であるのに対し、派遣社員は1660円、パートタイマーは1050円と、さらに賃金が低下しているのだ。安倍元首相の対応は、企業に賃上げを求めるというむなしいものであった。 ■高齢者向けの社会保障も削減
真の成果を得るには、日本においても、男女間、正規・非正規間の同一労働同一賃金を定める法律を施行し、労働省に法律違反の調査・起訴を義務付けることもできたはずだ。しかし、安倍元首相はそうしないことを選んだ。 同時に、安倍元首相は2000年以降、高齢者向け社会保障への政府支出を削減する傾向を続けている。彼の在任中に、高齢者1人当たりの老齢年金はさらに9%減少した。 また、国民所得を国民から企業へ分配する政策を続け、企業の最高法人税を38%から30%に引き下げる一方、消費税は10%に倍増させた。
安倍元首相は、前任者たちと同様、減税によって企業が投資を増やし、賃金を上げるという「トリクルダウン」理論を提唱した。実際、岸田首相の新しい資本主義会議の資料にあるように、2000年から2020年にかけて、日本の数千社の大企業の年間利益はほぼ倍増したが、全労働者への報酬は合わせて0.4%減、設備投資は5.3%減となった。 ■女性の雇用は増えたかもしれないが このような事実を前にして、安倍元首相を支持する人たちは、女性の雇用が増えたことを「ウーマノミクス」の大きな成果として挙げる。しかし、これは多くの豊かな国々での経験とほとんど変わらない。男性が賃金の引き下げに苦しむと、家計を維持するために労働力に加わる妻が増えるのだ。
安倍政権では、女性の雇用増加の75%が低賃金で、将来性のない非正規雇用であった。安倍元首相自身、2013年に掲げた「7年後に女性管理職比率を30%にする」(東京都が10年前に掲げた目標の繰り返し)は達成できなかったことを認めている。 そこで、2015年には目標を半分の15%にしたが、その目標の達成はまだ見通しが立たない。 安倍元首相を擁護する人たちは、デフレ脱却を功績として挙げている。しかし、安倍元首相は常々、日銀総裁がわずか 2 年で達成できると主張した、2%のインフレ率を達成すれば経済の成長は回復すると主張してきたが、これも実現していない。
そのため、日本政府が2%のインフレ目標にさえ近づくことができないと、安倍元首相の支持者は主張を変え、物価下落を終わらせれば十分だと主張するようになった。 いずれにせよ、安倍元首相がインフレを克服した方法は、またしても生活水準への打撃となった。健全なインフレは、堅調な内需の結果である。一方、安倍政権時代の物価上昇の93%は、食料、エネルギー、アパレル、履物などの輸入集約型製品に起因している。 それは、安倍元首相の掲げる円安誘導政策によって、輸入品の価格が上がったからだ。このようなインフレは、日本の消費者から外国の生産者に所得を移すだけであり、日本の多国籍大企業の利益を上げることになる。
■「3本目の矢」が欲しかった アベノミクスは、安倍元首相が公約に掲げた経済構造改革、すなわちいわゆる「アベノミクスの3本の矢」のうち「3本目」を真に追求していれば、日本を救うことができたはずである。しかし、そのためには権力を持つ者の既得権に踏み込む必要があり、安倍元首相は前例のないほど国会を支配していたにもかかわらず、構造改革の追求に政治資本を使わないという選択をしたのである。 それは、デフレさえ克服すれば痛みを伴うことなく成長できる、という自らの主張を信じたからかもしれない。一例を挙げれば、巨大な農業協同組合中央会(JA全中)が独占禁止法の適用を受けないため、消費者は高い食品価格を支払わさている。安倍元首相は、JA全中の抜本的改革に着手したと言いながら、実際には、協同組合を解体するという彼自身の諮問委員会の助言を無視した。