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引用:現代ビジネス
「アベノミクスの手仕舞い」に財務省が動き出した…そのキーマン「ミスターJGB」とは何者か?
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「異次元緩和」がついに終わる
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安倍晋三元首相が銃撃に倒れ、日銀の黒田東彦総裁の任期満了も来春に迫る中、財務省は「アベクロ時代」の終焉に伴う「異次元緩和策」の手仕舞いへの備えを急いでいる。国の借金が国内総生産(GDP)の2倍に膨らむ中、日銀が緩和縮小に動けば、長期金利が上がって国債の利払い費が急膨張しかねないからだ。今春以降、インフレ圧力の高まりを受けて米連邦準備理事会(FRB)が急速な金融引き締めに乗り出した一方、黒田日銀が物価上昇率目標2%を達成できていないことを理由に異次元緩和を堅持してきたことから、日米金利差拡大を背景に円安・ドル高が急速に進んだ。 賃上げが進まない中、エネルギーや原材料、食品などの輸入価格上昇を増幅する円安は、世論の間で「悪い円安」と懸念を広げた。財務省にとっては国富の海外流出に伴う経常収支の赤字拡大も悩ましい問題で、放置すれば「日本売り」につながりかねないリスクもあるだけに、茶谷栄治次官(1986年入省)ら中枢は「黒田緩和の矛盾が噴出し、いよいよ限界に近付いてきた」との思いを強めた。
「ミスターJGB」を呼び戻す「異例人事」
6月に、国債管理政策を担う理財局長に「ミスターJGB(日本国債)」の異名を取る斎藤通雄氏(1987年入省)を上がりポストの東海財務局長から呼び戻す異例の人事を行ったり、新たな有識者会議「国の債務管理に関する研究会」を立ち上げたりしたのも、日銀の異次元緩和の見直しに備えるためだった。斎藤氏は国債を市場で大量に売りさばくようになった1998年から2001年まで市場の制度整備に携わり、旧大蔵省の資金運用部による買い入れ停止をきっかけに長期金利が一時、0.6%台から2.4%台に跳ね上がった「運用部ショック」の収拾に奔走。2010年から2013年までは理財局国債業務課長や国債企画課長を務め、東日本大震災の復興財源を調達するための復興債の発行などを手掛けた。メガバンクや大手証券など国債の買い手である大手金融機関の市場部門と太いパイプを持つ斎藤氏は、以前にも理財局長への起用が有力視されていた。 だが、森友学園への国有地売却やその後の公文書改ざんの発覚で、理財局長が国会での追及の矢面に立たされる「修羅場ポスト」となり、将来の次官級候補を就けて「組織防衛」を最優先する必要が生じたため、斎藤氏の起用が見送られた経緯がある。安倍首相の退陣後に森友問題が落ち着く一方で、アベノミクスの修正を掲げる岸田文雄政権が発足して日銀の異次元緩和の見直し観測が台頭する中、「ミスターJGB」を必要とする場面がいよいよ到来した。
タガが外れた自民党「積極財政派」
アベノミクスが始まった2013年度以降、2021年度まで国債発行残高は約300兆円も増える一方、国の利払い費の増加額は約5000億円にとどまっている。異次元緩和が財政の資金繰りの円滑化に大いに役立ってきたことは、財務省も認めざるを得ない。ただ、やっかいなことにその効果が絶大だったがゆえに、永田町の財政規律に対する意識が喪失し、自民党内では安倍氏につらなる積極財政派を勢いづかせる大きな副作用ももたらした。 今では「自国通貨建ての国債が発行できる国は財政破綻しない」という現代貨幣理論(MMT)を信奉する与党幹部が跋扈するような状況で、財務省としては財政健全化のタガを締め直すためにも、異次元緩和の見直しに向き合わざるを得ないのが実情だ、安倍氏の死去により、市場で異次元緩和の手仕舞い観測が一層強まる中、投機筋は盛んに日本国債売りを仕掛けている。
日銀にも次官級OBを送り込む
安倍氏とアベノミクスを二人三脚で推進してきた黒田日銀は無制限に国債を買い入れる指し値オペを連発し、長期金利の上限を誘導目標の0.25%以内に抑えようと躍起になっているが、「こんな状況を長く続けられるわけではないのは誰の目にも明らか」(官房筋)だ。ポスト黒田の日銀にとって最大のマンデートが異次元緩和の修正になるのは確実で、財務省は国債消化の日銀頼みからの脱却を迫られている。 次期総裁にはともに日銀生え抜きの雨宮正佳副総裁と、中曽宏前副総裁のいずれかが就くことが有力視されているが、財務省は新執行部の副総裁に次官級OBを送り込み、金利上昇による国債市場の混乱を抑える異次元緩和の出口戦略を描く腹積もりだ。しかしながら、10年近くもの長きにわたって相場を大きく歪めてきた「何でもありの金融政策」の後始末は、一筋縄では行きそうにない。