引用:日経ビジネス「親イスラエルの中東和平案、陰の主役はサウジ皇太子」
2020.1.31 池内恵氏インタビュー
このタイミングを選んだ理由のもう1つは、米国とイスラエルのそれぞれの国内理由、つまり選挙です。米国は11月に大統領選挙を迎えます。トランプ大統領はイスラエルとの関係を重視するキリスト教右派の支持を固めるべく、イスラエルの意向に沿ったこの和平案をそれまでにどこかの段階で発表しておきたかった。
他方、イスラエルも3月に議会の総選挙が控えています。2019年4月からの1年の間で、実に3回目の議会選挙です。ネタニヤフ首相が率いるリクードは、19年4月の選挙で第1党となったものの、連立協議がまとまらず政権を樹立することができませんでした。19年9月に行われた2回目の選挙では第1党の座を失うことになりました。今年3月に行われる選挙でネタニヤフ陣営を後押しするためには、このタイミングで今回の和平案を発表する必要がありました。ネタニヤフ政権とトランプ政権およびトランプ一家は強い協力関係を築いてきました。
今回の和平案は、トランプ大統領の得票率向上に寄与するでしょうか。
池内:当然、強いアピール力があると思います。
イスラエルの選挙への影響度はどうですか。
池内:これは分からないところですが、私は大きな影響はないと見ています。今回の和平案は実効性を伴うものではないからです。ネタニヤフ首相はイスラエル国内では退陣間際で最後のあがきをしていると見られています。実現することのない和平「案」だけで流れを変えることはできないでしょう。もしサウジを抱き込んで、パレスチナ側にこの案をのませていれば、ネタニヤフ首相の外交成果になったでしょうが、そうではなく、トランプ大統領に影響力があることを見せられただけですから。