NHKと政治権力

番組改変事件当事者の証言

NHK最高幹部への「政治的圧力」で慰安婦問題を扱った番組はどう改変されたか．NHKと政権党との癒着を問う．

著者	永田　浩三著
通し番号	社会273
ジャンル	書籍 > 岩波現代文庫 > 社会日本十進分類 > 社会科学
刊行日	2014/08/19
ISBN	9784006032739
Cコード	0136
体裁	A6 ・並製・カバー・ 330頁
定価	1,364円
在庫	在庫あり

この本の内容

著者略歴

政権党有力政治家が2001年にNHK最高幹部に「圧力」をかけることで，慰安婦問題を扱った「ETV2001」は著しく改変された．担当プロデューサーによる苦渋に満ちた証言は，この事件の全過程を照らし出し，放送現場で戦時性暴力をどう取り上げるべきかであったかを問いかける．公共放送NHKによる政権党への癒着を厳しく批判する．

■編集部からのメッセージ

NHK番組改変事件についてご存知でしょうか．2001年１月30日に放送されたNHK教育テレビ『ETV2001』シリーズ「戦争をどう裁くか」の第二回「問われる戦時性暴力」の内容が，政権党の有力政治家とNHK最高幹部が放送直前に接触することで，改変を余儀なくされたことは，以後「NHK番組改変事件」として市民の関心を集め，いくつかの場で激しく争われることになりました．
　その一つは法廷の場での争いです．番組の内容が事前の取材で示された企画意図と大きく隔たったことに対して，「女性戦犯国際法廷」の主宰者であるバウネットがNHK他二社を提訴したのです．この裁判は2007年東京高裁が，NHK側に編集の権限を超える濫用・逸脱があったとして原告への損害賠償を認めましたが，最高裁では2008年，高裁判決を覆して，NHK側の勝訴として決着しています．
　もう一つは「朝日新聞」が2005年段階で，自民党の中川昭一氏，安倍晋三氏がNHKに「政治的圧力」をかけた事実をスクープしたことに関わります．この記事そのものが極めて不正確で杜撰な取材によるものだとNHK側が激しく反駁し，NHK対朝日新聞の全面対立という様相を呈したのです．
　この二つの舞台での争いが社会的な関心を集めたことによって，そもそも視聴率が一％に満たない番組の放映に至る過程で何が起きたのかが，「番組改変事件」として世間の注目を集めたわけです．
　著者永田氏は，プロデューサーとしてこのシリーズの編集長を務めました．永田氏は裁判で，当初はNHK側の証人として陳述しましたが，後には番組改変を余儀なくされたのは政治家からの「圧力」が局上層部に届いていたからだと明確に証言するようになりました．その永田氏が事件から十年経過した時点で，この番組改変事件とは何であったかについて初めて沈黙を破ったのが，前著『NHK，鉄の沈黙はだれのために』（柏書房）です．
　今回はその後数年間に明らかになったこと，2014年時点におけるNHK問題と慰安婦を巡る日本社会での論争点をふまえて，一冊を書きおろしていただきました．NHK番組改変事件についての決定版であり，岩波現代文庫オリジナル版として刊行させていただきます．
　本書は改変された番組の当事者による証言という点に特長があります．NHK放送総局長，番組制作局長らの強い命令により，放映直前にテープに鋏を入れ，番組を改変した当事者の一人が永田氏であったわけです．その改変作業によって，出演者の発言は理解しづらいものとなり，視聴者を驚かせることになりました．
　永田氏は政権党の有力政治家とNHK最高幹部が放送直前に接触したことで，番組は著しく改変されてしまったこと，それが局内では海老沢会長からの命令として現場に下ろされてきたことを明らかにするのです．
　本書はメディアの現場で苦闘した著者の証言として貴重です．慰安婦問題など戦時性暴力をメディアでどのように伝えるべきなのか，当事者の証言にどう向き合っていたら良いのかという主題を広範な読者とともに考えるヒントが満載された書物となっています．
　　公共放送であるNHKへの政治的介入やNHKの政権党との癒着は，決して過ぎ去りし過去のことではありません．また，慰安婦問題をめぐるNHK会長の発言は，2014年の現在でも深刻な問題として浮上しています．番組変事件が裁判としては決着し，政治的圧力から十余年の歳月は流れたとはいえ，今も終わっていない問題として再認識することを通じて，本書は広範な市民がNHKについて考え続けていくための刺激的な一書になると言えるでしょう．

引用２：前回投稿