菅義偉首相は9日、新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言延長に踏み切った。 退陣までの残り少ない任期で、全面解除に道筋を付けることを目指すが、医療提供体制はなお逼迫(ひっぱく)しており、次期政権への持ち越しが現実味を帯びる。一方、このタイミングで行動制限緩和策を打ち出したのは、菅政権が重視する経済再生に向けた実績づくりの思惑が透ける。 【図解】緊急事態宣言とまん延防止措置の対象地域(9月13日以降) 「私がやるべきことは、この危機を乗り越え、安心とにぎわいのある日常を取り戻す道筋を付けることだ」。首相は9日の記者会見で、残りの任期中は新型コロナ対策に全力を挙げる考えを強調した。 首相は3日、コロナ対策に専念するとして、自民党総裁選への不出馬を表明した。後継の新総裁は29日に選出、新政権の発足は10月上旬の見通し。これを踏まえ、政府の延長判断は「首相の任期内を期限とする」(関係者)ことが既定路線だった。
政府高官は、今月末の期限について「菅政権が何も決められない時期では困る」と解説。首相は引き続き全面解除の決定を模索しており、28日にも対策本部を開く方針だ。 体裁と体面、これが自民盗伝統の”失敗の本質”だ
ただ、新規感染者数は減少傾向にあるが、重症者数は高止まりしたまま。医療の逼迫状況は続いている。夏休み明けの学校再開に伴う人出増の影響が出るのはこれからで、感染力の強いデルタ株の流行も衰えを見せない。政府内には「感染者数が減少する理由が分からない」(厚生労働省幹部)との見方もあり、全面解除への道のりは険しい。 政府は宣言延長と併せ、ワクチン接種などを条件に、飲食店の酒類提供を容認する制限緩和策を決定。政府関係者は「痛んだ経済を再開させる」と狙いを語るが、性急な緩和はリバウンド(感染再拡大)を招きかねない。9日の基本的対処方針分科会では、出席した専門家から「慎重に進めるべきだ」との意見が相次いだ。 首相の言動にはちぐはぐさも目立つ。コロナ対策に専念するとしつつ、野党が要求した臨時国会の召集を拒否。今月下旬に訪米を検討していることも判明した。政府内からは「国民の理解を得られるのか」(関係者)と疑問視する声が漏れる。