引用 毎日
2023年春ごろから、徐々に激しさを増した埼玉県内に住むクルド人へのヘイトスピーチ。24年2月下旬、クルドの当事者団体の一員として活動する30代クルド人男性が、ある日の携帯電話の着信画面を記者に見せてくれた。「この日は深夜に8件ほど連続して電話がかかってきました。電話に出ると罵声を浴びせられます」
クルド人に対してだけではない。日本語教室の開催や医療支援などに取り組む日本の支援団体の元にもメールなどが届く。24年2月20日に送られてきたのは「クルド人皆殺し万歳」などと繰り返すメッセージ。こうしたメールは前年から激しさを増し、約半年で40件近く届いたという。団体は埼玉県警蕨署に被害を相談している。
1月、クルド人らが年に1度行ってきた新年の祝祭「ネウロズ」を今年も開催するために公園の使用許可を申請したことが報道されると、今度は開催地となってきた県営秋ケ瀬公園（さいたま市桜区）の関係先に抗議が相次いだ。公園を管理する県公園緑地協会の関係者は「1日10件以上『テロリストに加担するのか』などと電話がかかってきた」と打ち明ける。
2月18日には、川崎市などで在日コリアンに対する排外主義的な主張を繰り返してきた団体がJR蕨駅前でデモを行った。デモ隊の参加者は10人に満たない程度だったが「根絶せよ！！クルド犯罪と偽装難民」などと書かれたプラカードを掲げ、クルド人らが経営する店舗などの前を通過した。
治安と移民
「クルド人は微罪でも引っ張るべきだ」
「クルド人は全員強制送還を」
その後も、クルド人や外国人が関係する事件が報じられるたび、X（ツイッター）上では憎悪の矛先の一部が「クルド」に向く。
個別の「犯罪」や「テロ」を理由に、民族に対して繰り返される差別発言の数々。ヘイトスピーチに詳しい大阪公立大学の明戸隆浩准教授（社会学）は「欧米では『移民に仕事を取られる』など雇用・労働への危機感から排外意識が高まりやすいが、日本においては『日本は治安が良い国』という自意識から治安問題として移民・難民排斥が主張される傾向がある」と指摘。「ここ最近、クルド人を巡る目立ちやすい事件や、『テロリスト』などのレッテルが貼られたことによるネットを中心とした扇動とヘイトの高まりが見られる」と背景を考察する。
その上で、「ヘイトスピーチ解消法は（ヘイトの）定義が比較的狭義にとどまるが、それでさえ特定の属性に対する、生命の危機の告知、地域からの排除、著しい侮辱をヘイトスピーチとしている。『外国人』や国籍など特定の属性に向けられるこれらの主張そのものが問題で、グループに犯罪者がいるか否かということは、ヘイトス…
