2023年の報道の自由度ランキングで、日本は180カ国中、68位だった。パリに本部がある「国境なき記者団」による調査だ。日本では、記者の投獄や殺害はめったにない。このランクの低さは、政治権力による言論弾圧というよりは、記者の側の弱さに原因がある。長いものにまかれ委縮してないで、ちょっとは根性出そうよ、という感じだ。
だが日本社会全体に関係するランキングがある。
ロンドンが本部の「チャリティーズ・エイド・ファンデーション(CAF)」が、世界各国を対象に、他者への貢献度を調べたところ、日本は2022年発表分で119カ国中118位だった。2021年分では、114カ国中、最下位だった。
アメリカの調査会社、ギャラップ社による世界12万7000人へのインタビューがランキングの根拠になっている。質問項目は、以下の3つを過去1か月間に経験したかというものだ。
①見知らぬ人を助けた
②寄付をした
③ボランティアをした
ランキングでは、それぞれの項目を経験した人の割合を出した。総合ポイントは、各項目を足して3で割った値だ。
以下は、2022年発表分の「トップ10」と「ワースト10」だ。
【トップ10】
1位 インドネシア
総合68%/人助け58%/寄付84%/ボランティア63%
2位 ケニア
総合61%/人助け77%/寄付55%/ボランティア52%
3位 アメリカ
総合59%/人助け80%/寄付61%/ボランティア37%
4位 オーストラリア
総合55%/人助け69%/寄付64%/ボランティア33%
5位 ニュージーランド
総合54%/人助け66%/寄付61%/ボランティア34%
6位 ミャンマー
総合52%/人助け55%/寄付73%/ボランティア28%
7位 シエラレオネ
総合51%/人助け83%/寄付27%/ボランティア44%
8位 カナダ
総合51%/人助け65%/寄付59%/ボランティア29%
9位 ザンビア
総合50%/人助け74%/寄付35%/ボランティア43%
10位 ウクライナ
総合49%/人助け75%/寄付47%/ボランティア24%
【ワースト10】
110位 アルメニア
総合29%/人助け61%/寄付16%/ボランティア11%
111位 ラトビア
総合29%/人助け50%/寄付27%/ボランティア10%
112位 チュニジア
総合28%/人助け63%/寄付9%/ボランティア13%
113位 ラオス
総合27%/人助け36%/寄付30%/ボランティア15%
114位 ポルトガル
総合26%/人助け52%/寄付17%/ボランティア10%
115位 レバノン
総合24%/人助け50%/寄付14%/ボランティア9%
116位 エジプト
総合23%/人助け57%/寄付7%/ボランティア4%
117位 アフガニスタン
総合21%/人助け44%/寄付7%/ボランティア13%
118位 日本
総合20%/人助け24%/寄付18%/ボランティア17%
119位 カンボジア
総合19%/人助け23%/寄付24%/ボランティア10%
認知症グループホームにみる希望
日本は1位のインドネシア と比べ、総合で約50ポイント差がある。この差はどこから来るのか。
インドネシアの高さについて、2022年のレポートではこう書いている。
「宗教がインドネシアの寄付文化に強く影響している。ザカートが多くの人々の慈善活動を促進している。イスラム教徒にとってザカートは、社会的弱者や困窮者への寄付は宗教的義務であると定義されている。この慣習はインドネシアの他の宗教にも適用されている。インドネシアは世界で最もイスラム教徒の多い国で、2億3100万人のイスラム教徒が暮らしている。多くのインドネシア人が個人資産を増やしていることも、インドネシア全土で社会貢献活動を活発にしている」
日本はどうだろう。最下位だった2021年のレポートに具体的な記述があった。
「日本は先進国としては異例なほど、歴史的に市民社会が限定的である。寄付をめぐるルールは複雑だ。国に何かをしてもらうことへの期待が高く、非営利団体が組織化されるようになったのは比較的最近のことである」
この理由を読んだ時、的確に日本の状況を言い当てていると思った。ムラ社会は強固でも市民社会が脆弱。戦争や震災でどんなに痛い目に遭ってもなお、「お上」が何とかしてくれると心のどこかで頼っている人が多いと感じるからだ。
本来ならば、お上ではなく市民主導で社会をつくっていくからこそ、知らない人でも手を差し伸べ、寄付をし、ボランティア活動に取り組むことが大切だ。
では日本には望みがないのかというと、そんなことはないと思う。他者に思いを馳せて貢献しようという人は日本にもいる。例えば、通学路に立って子どもの安全を見守る地域住民、東日本大震災など災害時に献身するボランティア、そういった人たちを私は取材で目の当たりにしてきた。
力が必要なのではなく、自分ができることを気軽にやればいいのだと思う。
認知症のお年寄りが入居する石川県内のグループホームを取材したことがある。そこで驚いたのは、入居者たちがホーム内で活発に動いているということ。暗い雰囲気でじっとしている光景を予想していたので、意外だった。職員によると、料理でも大工仕事でも、できることは入居者自身にやってもらっているということだった。しょげていると症状も進むが、誰かの役に立っているという気持ちが本人を生き生きとさせ、症状を改善させるのだという。
玄関でたばこをふかしていた派手な感じの女性は、私がホームを訪れた時、実に感じよく明るいあいさつで出迎えてくれた。職員によると、スナックのママさんを長年してきた女性で、ホームの来客を出迎えるのが楽しいのだという。
性格も背景が違う人が同じ空間に集い、自分のできることで他者の役に立ちながら生き生きと暮らす。日本社会とでは規模が違うが、基本的には同じ感じでやれないかなあ。今回の日本の低ランクを見ながら、あの時のグループホームのことを思い出した。