21年1月の電力スポット市場価格高騰問題。経産省は、”寒波の中で起きたことで”、再エネ発電は”天候不順に弱く頼りにできないこと”、原子力発電が停止していることが原因と言う。
しかし、このとき、スポット市場の売り入札が止まるということが起きた。世界の歴史でこんなことはない。経産省の嘘操作に乗らず、この異常事態をよく見る必要がある。
市場が機能停止、ということは、経産省の市場設計の欠陥だ。経産省の責任問題を問題の中心に置いて、責任追及を続けよう。経産省と東京電力らは、嘘の”電力自由化”でごまかしている。発電を分離しても、大手電力が現状のように送電網を握り続け、再エネ発電者の送電線利用を拒否している。これでは電力のぶっとい供給構造ができない。
引用:
「電力市場大混乱」の先にある知られざる日本の危機
(政策コンサルタント:原 英史)
2020年の年末以降、電力市場は異常事態に陥った。通常ならkWhあたり10円弱のスポット価格が最高値251円。1月下旬になってようやく落ち着いたものの、この間の平均価格は61円(12月20日-1月21日)。異常な水準の価格が続いた。
政府とマスコミの間違った説明
これほどの価格高騰がなぜ生じたのか?
政府やマスコミの説明では、主たる原因は「寒波」と「太陽光発電の出力低下」とされている。
・「昨年末から続く寒波で電力需給が逼迫し、電力会社間で電気を取引する卸電力市場のスポット価格が急騰している」(1月13日朝日新聞)
・「天候不順が続く中では太陽光発電による発電量が少なく、電力不足には対応できない」(1月13日産経新聞)
・「厳しい寒さによりまして電力需要が例年に比べて大幅に増えていること、一方で天候の不順により太陽光等の再エネの発電量が低下をし、LNGの在庫も減少していることを受けて、全国的に電力需給が厳しい状況が続いております」(1月12日経済産業大臣会見)
当然のごとく流布している説明だが、実は間違いだ。実際には、今年の「寒波」は数年に一度程度のものでしかなく、需要増は普通に想定されていた範囲内。「太陽光」は前年に比べむしろ増加している。どちらも、異常な価格高騰の原因にはならない。
筆者も委員を務める内閣府再エネ規制総点検タスクフォースで、2月3日、電力需給問題に関する「緊急提言」を行い、この間違いを指摘した。会議には河野太郎大臣も参加し、ほかにも多くのデータを示し資源エネルギー庁などと議論している。資料と会議動画は以下で公開されているので、ぜひご覧いただけたらと思う。なお、念のためながら、本稿はタスクフォースとしての見解ではなく、筆者個人の見解だ。
(資料)https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/conference/energy/20210203/agenda.html
(動画)https://youtu.be/YaF0P9hgUP4?t=1540(「緊急提言」の説明は25:40頃から)
間違った説明が、真相を隠す意図でなされたとは思わない。とりわけ異常事態の初期は、不明なことも多かっただろう。だが、少なくとも現時点で分析すれば、明らかに事実と違う。間違った原因説明は、的確な問題解決と再発防止の妨げになる。政府は早急に訂正を行うべきだ。
根本原因は「市場設計の欠陥」
では、本当の原因は何だったのか?
詳細は不明な点が多く、「緊急提言」でも徹底究明を求めているが、現時点で明らかなこともある。まず、売り入札が12月末に突如急減し、その後は売り切れ状態が続いたことだ。需給曲線の交差は垂直線上で生じ、売り札の最高額よりはるかに高い価格での約定が数週間にわたり継続した。いわゆる価格スパイクではなく、「世界中の電力市場の歴史上、ほぼ初めて」(安田陽・京都大学特任教授)とされる「市場の機能停止」状態に陥ったわけだ。*1
*1 https://project.nikkeibp.co.jp/energy/atcl/19/feature/00007/00048/
直接のきっかけはLNGの在庫不足だ。アジアのLNG市場の逼迫が背景だが、なぜこれほどの売り入札急減につながったのか、調達に際して見込み違いがあったのかなどは、さらに調査が必要だ。
そして、それらの裏側にある根源的問題が、電力市場の構造だ。電力自由化はなされたが、今も発電市場は大手電力が8割を占め、発電と小売は同一会社で運営されている(東京電力と中部電力では別会社だが同一ホールディングス内)。このため、異常な高価格になっても、大手電力内では損得が相殺されるが、小売部門のみの新電力には多大な損失が生じる構造だ。
今回の価格高騰が売り惜しみや相場操縦で人為的に作られたのかは、調査中であり何ともいえない。だが、少なくとも客観的にみて、市場支配力と情報を握る事業者が売り入札を減らし、結果として有利な取引が成立していたことは間違いない。
問題は、そうした市場構造にもかかわらず、市場機能を守るための制度設計が全く足りていなかったことだ。情報開示は不十分で、大手電力内の取引やLNG在庫などの情報もブラックボックス状態。価格乱高下に対応する仕組みも整備されていなかった。「市場設計の欠陥」が異常事態の根源だったことは明らかだ。
新電力は救済すべきか?
新電力の相当数は危機的状況に陥り、政府に救済を要望している。これに対し大手電力幹部は、「自身の経営判断は棚に上げといて、大手電力がぼろもうけしたというのは筋違い。燃料調達と確保に走り回ったのは、誰だと思っているんだ」と怒り心頭という(出典:ダイヤモンドオンライン『経産省の新電力救済策でバレた!電力小売全面自由化の「崩壊」』)。
たしかに、欠陥ある市場にリスクヘッジもせず参加していた新電力には責任がある。大手電力の方々が必死で停電を回避したことには感謝したい。
しかし、大手電力が今回「ぼろもうけ」すべき理由もない。異常事態の直接のきっかけはLNG調達の不足、つまり大手電力側の事情だ。それにもかかわらず、「市場設計の欠陥」をてこに、異常な価格で生じた利得を大手電力が手にし、一部の新電力などが一方的に負担を負わされているのは、どうみても不公正だ。
この間の利得について、遡及的に新電力・消費者への還元がなされるべきだ。これは、負担配分の適正化の議論であり、「新電力がかわいそうだから救済」という話ではない。市場の機能停止を招いた政府の責任で大手電力を説得すべきだ。
電力自由化は間違っていたのか?
今回の事態を受け、「電力自由化はやはり間違っていた」との言説も目にする。しかし、すでに述べたように、異常事態の根源は、自由化に伴う「市場設計の欠陥」だ。電力自由化が間違っていたのでなく、自由化の改良が課題だ。
ただ、そうは言っても、現実にはこの先、自由化は大きく逆行する可能性が否めない。このままなら新電力の多くは近いうちに撤退を迫られる。経営危機は回避できても、こんな危うい市場でビジネスを継続できないと判断する経営者も多いだろう。
行き着く先は、かつての垂直統合・地域独占体制への回帰だ。競争と参入なき産業に進化はない。そんな状態に戻れば、日本のエネルギー産業の進化は停滞する。かつての体制は火力・原子力など大型電源に適合した体制だから、周回遅れの再エネ拡大はさらに遅れる。世界で「再エネ電力利用」を調達基準とする企業が拡大する中で、エネルギー後進国の日本から企業が逃げ出す事態にもなりかねない。「2050年カーボンニュートラル」を悠長に論じている場合ではなく、危機は目前に迫っている。
自由化の逆行を食い止めるには、電力市場への信頼を一刻も早く回復するしかない。「緊急提言」で示した「市場設計の欠陥」解消に向けて、ここ数週間で道筋をつけられるかどうか。
電力業界だけの問題ではなく、日本の未来を大きく左右する重大局面にいま差し掛かっている。