私はこれまで、読売新聞がさかんに報道する中国の「千人計画」に関する報道の問題点を指摘してきた。

 

 これらの記事のなかで、私は以下の点を指摘した。

 

  1. 日本が先端技術の中国への流出に警戒を高めているが、千人計画採択者を含め、中国へと渡る日本人研究者の多くは基礎研究者が多い。その背景には、中国が引き抜いているという理由もさることながら、国立大学法人後の運営交付金削減や「選択と集中」政策等の結果、日本の大学の環境悪化が進行したため、日本側が積極的に海外流出を後押ししている現状がある。これは世界的に起きている「頭脳流出」「ブレインドレイン」の一つとして見るべき現象であり、日本にとって不都合な現実といえる。
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  3. 読売新聞の取材の中では、軍事や応用技術流出の懸念の対象からは比較的距離がある分野を研究している日本人基礎科学研究者を無理やり、「高給と引き換えに軍事技術流出」という記事の方向性にあてはめている。この目的のため、「事実誤認」「発言捏造」まがいのことまで行っている。さらには、そういった問題点を抱えた取材をしているにもかかわらず、新聞協会賞や書籍化を狙っているという批判が内部からもあがっていた。
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  5. このような一連の在中日本人研究者バッシング報道に対し、日本から中国の大学への応募が減るという抑止効果を期待する一部の声もあったものの、実際にはそのような効果はなく、むしろ日本からの応募が増えているという。皮肉な逆効果となっている。

 その後、新聞協会賞のエントリーについては、社内選考の段階でアウトになったという。実際、今年の協会賞応募作品の中に「千人計画」特集は含まれていない。良識ある社内判断を歓迎したい。