長期的な名目ゼロ金利の経済分析＊
櫻 川 昌 哉
要旨
本稿では，現在の日本銀行が採用する質的・量的金融緩和は，正しい理論的な裏付けを持
たないことを明らかにした．現行の政策を持続することは，インフレに近づくどころかむし
ろデフレへの回帰をもたらす危険性をはらんでいる．またマイナス金利政策は貨幣への逃避
を引き起こし，事態の解決に貢献しない．デフレ解決への有効な方法は，金利正常化を進め
て貨幣の資産需要を減少させることである．
6 結 論
この論考では，現在の日本銀行が採用する質的・量的金融緩和は，正しい理論的な裏付けをいっ
さい持たないことを明らかにした．現行の政策を持続することは，インフレに近づくどころか，む
しろデフレへの回帰をもたらす危険性をはらんでいることも明らかにした．にもかかわらず黒田総
裁は，なんら明瞭な説明をすることなしにこの政策に固執している．
見たいものだけを見るのが凡人だとするならば，見るべきものを見るのが賢者ということになろ
う．残念ながら，黒田総裁は見たいものだけを見ている．中央銀行が直視すべきは，貨幣が資産と
して保有されているという現実とその経済がデフレをもたらすメカニズムである．この論考から得
られる政策的インプリケーションは，日本銀行は金利正常化へ向けて政策転換をすべきであるとい
うことに尽きる．一刻も早く見るべきものを見てほしい．
（慶大）
最終稿受理2016年12月14日
